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赤い広場ー霞ヶ関 p.210-211 なぜ鳩山は特進したのか

赤い広場ー霞ヶ関 p.210-211 Shattuck was an undercover agent at the Canon Unit. After the return of Major Cannon, he managed Canon's accumulation. Shattuck joins Freemasonry and connects with Ted Lewin and Maurice Lipton.
赤い広場ー霞ヶ関 p.210-211 Shattuck was an undercover agent at the Canon Unit. After the return of Major Cannon, he managed Canon’s accumulation. Shattuck joins Freemasonry and connects with Ted Lewin and Maurice Lipton.

第一に「博愛王国」の話である。笠井氏の総領事と同時に、その知人の保険代理業R・シャタック氏が領事に任命されたという。

R・シャタック氏について語ろう。氏は冒頭に述べた仮名のQ氏その人である。氏については、二十九年九月十五日付読売の記事を引用しよう。

シャタック氏は、まだ三十前の若さだが、横浜の港湾輸送部隊の憲兵軍曹出身で、キャノン機関のキャノン少佐に可愛がられ、その機関要員として活躍していた。ところがキャノン少佐の帰米後、除隊してフリー・メーソンに加入、そこでルーイン氏の子分のリプトン氏らを通じて、ルーイン氏を知り、キャノン機関時代の腕を買われて、ル氏の腹心の一人になったという。

キャノン少佐が、密輸や隠退蔵物資の摘発などで職務外にかせぎためた私財のうち、日本へ残したものは貴金属、宝石をはじめ時価約五億円といわれ、これの管理に当っているのがシャタック氏で、さらにキャノン少佐の両腕といわれるビック・松井、グラスゴー両元准尉が、交代に二カ月に一度ぐらいの割で来日し、その会計監査をやっているといわれる。

またシャ氏はフリー・メーソンの極東最高責任者マイク・リビスト氏に可愛がられて、入会後数年にして三十二階級という高い地位にまで進んでいるので、当局ではシャ氏を中心とするフリー・メーソン、アメリカ特務機関、国際トバク団などの関係に重大な関心をもって捜査を進めている。

つまり、ナゾの女性が別れの言葉にいった、『Q氏のことはもう不用です』というのから考えると、シャタック氏を除こうとした動きには、終止符が打たれ、同氏はかえって確実な地位を占め、日本領事にまで任命された、とみるべきであろう。

「博愛王国」というのが、フリー・メーソンを背景とした王国らしいことは、フィリピン名誉公使が、三十三階級のオシアス氏であり、笠井、シャタック両氏とも、三十二階級であることでも、また、同国のシールの囲りの文字からも、容易に想像できよう。

そしてまた、オシアス氏は、例の〝フィリピンの夜の大統領〟テッド・ルーイン氏の後援者であり、ルーイン氏の子分、リプトン氏もまたメーソンである。

日ソ交渉のさ中に、鳩山首相がメーソンの最下位から二級上って、第三階級になり、その儀式にオシアス氏が来日した。首相の特進記事には、何故二階級特進したかが、少しも明らかにされていない。

前記産経の記事には〝友愛団体フリー・メーソン〟とあるが、メーソンは階級性の強い半宗教秘密結社であり、単なる友愛団体でないことは、今日ではもはや常識であろう。

では、何故、鳩山首相は二階級特進したのだろうか、どうして、その理由が公表されないのか。日ソ交渉の功により、と考えるのは、うがちすぎであろうか。

極東のフリー・メーソンの中に、日ソ交渉についての二つの意見が対立していた。それが二十九年秋ごろのことである。オシアス氏は三十三階級でもあり、一方の意見の旗頭であった。

反対派はオシアス氏直糸の、シャタック氏が、バクチ打の仲間であることを理由に、オシア

ス系勢力を叩こうとした。そして、私の逢った〝ナゾの女性〟に、その資料収集を命じた。しかし、オシアス派は強かった。

赤い広場ー霞ヶ関 p.212-213 一国の宰相が下から三階級

赤い広場ー霞ヶ関 p.212-213 In the fall of 1952, I was investigating a Masonic Jewish trading company in connection with the "Tokyo Concession". At that time, I wondered, "Where will the profits of millions of yen earned from many crimes go?"
赤い広場ー霞ヶ関 p.212-213 In the fall of 1952, I was investigating a Masonic Jewish trading company in connection with the “Tokyo Concession”. At that time, I wondered, “Where will the profits of millions of yen earned from many crimes go?”

極東のフリー・メーソンの中に、日ソ交渉についての二つの意見が対立していた。それが二十九年秋ごろのことである。オシアス氏は三十三階級でもあり、一方の意見の旗頭であった。

反対派はオシアス氏直系の、シャタック氏が、バクチ打の仲間であることを理由に、オシア

ス系勢力を叩こうとした。そして、私の逢った〝ナゾの女性〟に、その資料収集を命じた。しかし、オシアス派は強かった。

私が、ウダウダと引延しているうちに、この暗斗に決が下った。オシアス派が勝った。それは、或は「博愛王国」のライアント国王の決であったかも知れない。

そして、予定通り、日ソ交渉は滑り出した。最下級鳩山一郎氏の功績である。かくて、論功行賞が行われた——これが、私の白日夢であれば、幸いである。

朝日の「素描」氏は、MRAのデモをみて感心しながらも、『こんな金と暇はどこからでるのだろう』と疑問を感じている。まさに「素描」氏が感じたのと同じ疑問を、私は二十七年秋の東京租界の取材中に感じた。

米国籍人であるメーソンのユダヤ人商社についてである。脱税、ヤミドルなど、悪事の限りをつくして稼いだ、何億何千万円という利益が、彼らのどこに入っていくのだろうかということである。

これをMRAと結びつけて考えることは、果して不謹慎であろうか。

本筋へもどろう。ソ連政府にも、またアメリカにも、英国にだって、メーソン会員は多い。先ほど紹介した英国のレッドマン氏も、お名前から考えるとユダヤ系のように思えるが。……

私は、メーソンについても、MRAについても正確な知識を殆ど持っていない。従って誤りがあれば許して頂きたい。

しかし、メーソンに階級があるからには、階級の必要があるのであろう。一国の宰相が下から三階級ということは、一体どういうことだろう。旧軍隊でいえば、上等兵である。見習士官を加えても、元師は第十九階級である。メーソンに命令に対する服従の義務があるならば、鳩山首相は困られはしないだろうか。

鳩山首相は、われわれ日本国民の首相である。決して「博愛王国」や、「消えて行く島」のアイラブミー国や、ウイへィチウ国の、上等兵でもなければ、外交官補でもない。

近くバンコクで、極東フリー・メーソンの大会が開かれる。もちろん、メーソン大会などとは名乗らない。果して日本代表として、彼の地へ現われるのは誰であろうか。

メーソン会員として、名の出ている日本人の最高位は、笠井氏と同じく三十二階級である。では、日本人で三十三階級の人物はいないだろうか。

もし、私の判断が誤っていれば、読者にお詫びしたい。頭文字Kの人、この人こそそうではないかと思う。

〝奇怪な三人〟を調べたときの、アナリストの忠告と、地下の高級レストランで別れた〝ナ ゾの女性〟の表情とを想い浮べて、私ももうここらで筆を擱かねばならない。

赤い広場ー霞ヶ関 p.214-215 スパイは奇異なものではない

赤い広場ー霞ヶ関 p.214-215 What works behind the negotiations between Japan and the Soviet Union---is it Siberian Organizer, Freemasonry, or the Cannon Unit of CIA, or even the British Secret Intelligence Service?
赤い広場ー霞ヶ関 p.214-215 What works behind the negotiations between Japan and the Soviet Union—is it Siberian Organizer, Freemasonry, or the Cannon Unit of CIA, or even the British Secret Intelligence Service?

〝奇怪な三人〟を調べたときの、アナリストの忠告と、地下の高級レストランで別れた〝ナ

ゾの女性〟の表情とを想い浮べて、私ももうここらで筆を擱かねばならない。

日ソ交渉のかげに蠢くもの——それは果して、かいらいを操るシベリヤ・オルグか、フリー・メーソンか、或はまた、元キャノン機関シャタック氏を先頭とする米CIAか、或はさらにまた、レッドマン氏に代表される英国秘密機関か?

いまや、われわれの首都東京は、諜報と謀略の渦巻く、トオキョオ租界と化してしまった。

スパイ事件が起ると、世の知識人たちは必らず『日本にスパイされるような、機密があるのかい?』と、皮肉まじりにいわれる。そしてまた、各主管大臣たちは、国会で『秘密はありません』と、答弁する。

確かに、現在の日本には、法律に定めた国家機密はない。MSA兵器の秘密保護法、駐留軍秘密の刑事特別法の両法が、指定する秘密は要するに、アメリカの秘密であって、日本の秘密ではない。

では、一体ラストヴォロフ氏は、日本から何をスパイしていたか? 個人的にいえば、日暮氏を通じては、欧米局ロシヤ課に集まる、各地の大、公使館からのソ連情報、駐在国のソ連観や、大、公使などの情勢報告書、および本省のそれに対する見解などがある。また、内調に集る元国警や、検察庁、警視庁、防衛庁など治安機関をはじめ、労働省、運輸省、文部省など、一般行政官庁からの国策決定の各種治安情報文書をみることができたので、それらだろうという。

庄司氏は、駐留軍のキャンプ設置場所、宿舍の設備など、駐留軍との外交接衝やら、米軍と防衛庁との連絡事項が担当だったので、同様それらがラ氏の役に立ったとみられる。

これでも分る通り、また私が第一集「迎えにきたジープ」から、全篇を通して主張してきた通り、スパイとは決して奇異なものではないということ。つまり、大使館に忍びこんで、金庫から機密書類を盗む、といったような、大時代的なものではない。

どんな片々たる、頭も尻尾もない話でも、それが、組織的に処理される限り、重大な事実を示す〝情報〟であり、この情報を、意識的、系統的、に集めることが「諜報」であるということである。

謀略もまた、鉄橋をダイナマイトで破壊したりすることばかりではない。また、そんなのは

下の下たるものであるが、やはり、謀略というと、大時代的な感覚しかなくて、軽べつ感が先に立つ。

しかし、ラ氏の亡命とか、シベリヤ・オルグの活躍とか、久原翁の引出しとか、すべてこのように、ある目的をもって、所期の事実を、自然に作り出すのが「謀略」である。

赤い広場ー霞ヶ関 p.216-217 情報と謀略なく国は存立できず

赤い広場ー霞ヶ関 p.216-217 "There is no diplomacy without information," said a Foreign Ministry bureaucracy. However, the times have already come to a point where "a nation cannot exist without information and plot".
赤い広場ー霞ヶ関 p.216-217 ”There is no diplomacy without information,” said a Foreign Ministry bureaucracy. However, the times have already come to a point where “a nation cannot exist without information and plot”.

謀略もまた、鉄橋をダイナマイトで破壊したりすることばかりではない。また、そんなのは

下の下たるものであるが、やはり、謀略というと、大時代的な感覚しかなくて、軽べつ感が先に立つ。

しかし、ラ氏の亡命とか、シベリヤ・オルグの活躍とか、久原翁の引出しとか、すべてこのように、ある目的をもって、所期の事実を、自然に作り出すのが「謀略」である。

『情報なき外交はあり得ず』と、外務官僚は大見得を切るが、時代はすでに『情報と謀略なくしては、一国の存立はあり得ない』ところにきているのである。

今まで述べた米、英、ソ三国の情報機関の仕事をみてみれば、それは充分うなずけよう。

七月八日付の各紙によれば、政府は、内閣調査室に〝特高的〟調査は行わしめないようにしたという。当局者はいたずらに〝特高〟という言葉の、ニュアンスのみにとらわれて、迎合的であってはならない。

また、七月十日付読売夕刊の、マーク・ゲインのワシントン日記、「原子力時代のスパイ戦」にも、主役は科学者になると述べられている。事実〝静かなヴォルガの流れ〟とでもいう、一枚の観光写真さえあれば、この写真を立体化して、はるかの対岸にうつる工場の屋根だけからその工場の規模、内容、能力までが計算され得る時代である。

為政者は諜報と謀略という、古い言葉のみてくれだけにかかずらわって、今、なすべきこと

を見失ってはならないと信ずる。

ラ氏と志位氏の最初のレポは、東京は目黒の碑文谷警察署の裏手の住宅街の路上であった。少し早目にきて、佇んでいた志位氏は、パトロールの警官に職務質問を受けた。

ハッとして狼狽しかけたところへ、運良くラ氏が近づいてきた。早くも情勢を察知したラ氏は早口の英語でパトロールの警官を叱りつけたのである。英語を話すのはアメリカ人で、アメリカ人は味方である、という単純な考え方をした警官は、志位氏に『失礼しました』と謝って去っていってしまった。

同様に三橋事件のさい、ソ連スパイなら共産党員と思った国警都本部が、別人の三橋氏を追っていたこともある。

もし、碑文谷署のパトロール警官が、もっと自己の職務に忠実であり、自信を持っていたらラ氏と志位氏は、眼と鼻の同署に同行され、ラ事件は別の形で発展したかも知れなかったのである。

あらゆる国際犯罪の根が、暗黒都市「香港」にあることから、以前の国警では、香港に駐在官をおいて、情報入手の便宜を図り、国内の犯罪検挙の能率をあげようとした。ところが、何回申請しても、香港政庁はヴィザを出さない。

赤い広場ー霞ヶ関 p.218-219 アナリストはこう答えた

赤い広場ー霞ヶ関 p.218-219 I have recently obtained information that seems very rude and inaccurate for the PM. The reason is that he makes a donation to Prime Minister Hatoyama for 2 million yen every year.
赤い広場ー霞ヶ関 p.218-219 I have recently obtained information that seems very rude and inaccurate for the PM. The reason is that he makes a donation to Prime Minister Hatoyama for 2 million yen every year.

あらゆる国際犯罪の根が、暗黒都市「香港」にあることから、以前の国警では、香港に駐在官をおいて、情報入手の便宜を図り、国内の犯罪検挙の能率をあげようとした。ところが、何回申請しても、香港政庁はヴィザを出さない。

つまり、香港を根拠地とする英国秘密機関は、日本の警察官が香港に駐在して、的確な情報を入れて、〝東京租界〟の国際犯罪を撲滅することは、彼らにとって工合が悪いらしいとしか判断できないのである。

国警では、結局、軍事情報官という肩書で、桐山統計調査課長をパリに駐在させたが、これでは全く、隔靴掻痒である。警察官を外国へ出した意義は全くない。

日本が独立国であるならば、軍隊ももたねばならない。国家機密保護法も、スパイ活動防止法も、必要悪としてもたねばならない。入国管理令とか、外国人登録法とか、インチキな抜け穴だらけの法律は止めて、外事警察の準拠法令も整備しなければならない。

もちろん、国家の命運を司どる、情報機関も整備、拡充しなければならない。

そして〝東京租界〟の名を払拭して、首都東京として、誇らしい街を持ちたい。

現在、世界の各独立国が持っているのと、同様の外事諸法令をもち、同様の情報機関をもつことが、どうして、独立国である日本にとっていけないことだろうか。

私は最近、首相にとって非常に失礼な、そして確度が低いと思われる情報を入手した。その 情報というのは、例のバクチ打のモーリス・リプトン氏が、自由に日本に出入している。 理由は、彼が鳩山首相に毎年二百万円宛献金しているからだ、というのである。私はそのニュ

ース・ソースに『そんな馬鹿な!』と、一笑に付そうとしたところ、彼は真剣になって、『ウソか、ホントか、もうしばらくしたら、事件になってきますから、見ていなさい』という。

私はこの話を、治安当局に持ちこんで、その鑑定を乞うと、アナリストはこう答えた。

『エ? それは逆ですよ。首相が二百万円宛リプトン氏を通じて献金しているのですよ。私の方にはそういうふうに入ってます』

いずれにせよ、この情報は全く確度ゼロと思いたいことである。私のような若輩の、老宰相に対する敬愛の念と、人間としての礼儀とからいっても。

赤い広場ー霞ヶ関 p.221 あとがき 「真実」を伝える

赤い広場ー霞ヶ関 p.221 Afterword The only reason I wrote this book was because I thought that the "truth" had to be made known to as many people as possible.
赤い広場ー霞ヶ関 p.221 Afterword The only reason I wrote this book was because I thought that the “truth” had to be made known to as many people as possible.

あとがき

この数冊の「東京秘密情報シリーズ」は、私のライフ・ワークにもと願ってまとめあげたものである。それだけに、大袈裟にいうならば、私の十年余の記者生命をかけているつもりである。また、いろいろの意味の反響は、充分覚悟もし、計算にも入れているつもりである。

私に、この著をまとめさせたものは、ただ一つ、「真実」をできるだけ多くの人に知ってもらわねばならない、という気持である。

「真実」を伝えるということは難かしい。私が長い間お世話になっている読売新聞の『われらは真実と公平と友愛を以て信条とする。それが平和と自由に達する道であるからだ』という信条は、実に立派な言葉である。これをみる時、私は顧みて恥しい思いのすることがある。しかし、この著での「真実の追及」という、私の根本的な執筆態度は認めて頂きたい。

「真実」を伝えるということは、また同時に勇気がいることである。それによって不利益を受ける人たちの反撃は、実際に恐いのである。私も本音を吐くならば、この著を公けにするこ とはコワイのである。不安や恐怖を感ずるのである。