正義感とリリシズム
読売新聞副社長・編集主幹 原 四 郎
三田和夫君こそ典型的な読売社会部記者であった。そして身体には、いまもなお、読売社会部記者魂が、脈々と流れている。輝かしい足跡を残した彼は、横井殺害未遂事件を執ように追った後、読売を去った。だが、彼の強靭なペンは、さらに冴え、磨き抜かれ、正論新聞の主幹となって結実した。その正論新聞創刊十周年を記念して上梓された本書は、一貫して流れる正義感とリリシズムに充ち溢れ、読むものの心を捉えて離さないであろう。
正義感とリリシズム
読売新聞副社長・編集主幹 原 四 郎
三田和夫君こそ典型的な読売社会部記者であった。そして身体には、いまもなお、読売社会部記者魂が、脈々と流れている。輝かしい足跡を残した彼は、横井殺害未遂事件を執ように追った後、読売を去った。だが、彼の強靭なペンは、さらに冴え、磨き抜かれ、正論新聞の主幹となって結実した。その正論新聞創刊十周年を記念して上梓された本書は、一貫して流れる正義感とリリシズムに充ち溢れ、読むものの心を捉えて離さないであろう。
もっとも興味をひかれているのは、昭電疑獄以来の、大きな汚職事件の真相を、えぐってみたい、ということだ。政治生命を奪われた政治家や、財界人の立場から、事件をみると、また興味津々だろうと思う。ことに、私が司法記者クラブで、直接タッチした、売春、立松、千葉銀の三大事件で、権力エゴイズムをひきだしてみたいと思う。売春汚職のため落選した元代
議士の一人は、早くも一審で無罪が確定してしまったではないか。立松事件だって、政党、検察、新聞という三つの力が、マンジトモエに入り乱れるところが、何ともいえない面白さだ。
と、こんな工合で、どうやらメシだけは、今のところは食べていられる。それでも、月のうち半分は徹夜して、安い原稿料にも、感謝の念を忘れず、せっせと働らかねば、子供たちを学校へやることもできない。ただもう眠たい時などは、つくづくサラリーマンがうらやましい。御心配を頂いた皆さんに、この場をかりて、厚く御礼申上げる次第である。
同時に、ここまで、私を成長させて下さったのは、読売新聞社をはじめとして、各新聞社の諸先輩方、同僚諸君のおかげであると、深く感謝いたさねばならない。今後ともの、御指導を併せてお願い申上げる。
この本で、今、気になるのは、文中お名前を拝借した方々の、敬称の不統一である。書きあげるそばから、工場へ行ってしまったので、手落ちがあると思
い、お詫び申しあげておかねばならない。
いわば、特ダネを追って十五年、とでもいったような内容なので、文中、大そう口はばったいところもあるが、大体がアクの強い男なので御寬恕を乞いたい。もちろん、私一人が事件記者だなどと思い上っておらず、読売をはじめ、各社にも、優秀で、敵ながら天晴れと、秘かに尊敬している記者が多いことは事実である。記者諸兄、お怒りなきように。
当然、最後の項に、横井事件を入れるべきであったのだが、文春に詳しく書いたので割愛した。なお、文春所載の「事件記者と犯罪の間」は、臼井吉見氏編の「現代教養全集、第五巻、マス・コミの世界」(筑摩書房)に収録されたので、御参考までにお知らせしておく。まだまだ、いろいろな事件についての面白い話があったのだが、時間と紙数の関係で、これも割愛せざるを得なかった。稿を改めて書きたいと思っている。
昭和三十三年十二月十五日
著 者
最後の事件記者
定価220円
昭和33年12月30日発行
著 者 三田和夫
発行者 増田義彦
発行所 株式会社 実業之日本社 東京都中央区銀座西1の3
電話京橋(56)5121~5
振替口座 東京326
© 実業之日本社 1958年 印刷 株式会社 佐藤印刷所
平成元年(1989)11月8日 読売ジャイアンツ日本一祝勝会にて
三田和夫著『新宿慕情』あとがきには、
……務台総務局長のところに伺った。開口一番「ウン、事件のことは聞いたよ。ナニ、新聞記者としての向こう疵だよ。早く全部済ませて、また、社に戻ってこいよ」——温情があふれていた。私の〝常識〟でも、復社できるとは思えないのだが、(中略)爾来、私は〝務台教の信者〟社外第一号を自任している。
とある。
読売退社後、曲折を経て約10年後、池袋の小さな木造アパートの一室で『正論新聞』を創刊する。務台さんのひと言が三田和夫のその後の人生を支えたのだろう。
この集を手にされた方は、是非、第一集「迎えにきたジープ」も、読んで頂きたい。この日
ソ交渉にいたる経過は、終戦時のシベリヤにさかのぼらねば、本当に理解できないのだから。
そして、この著によって、外国に対する新しい見方が生れることを願い、それが日本のために何らかの形で益するならば幸である。
なお、お断りしておかねばならないのは、この著はあくまで私個人の責任において、私の記者生活メモを整理したものであって、読売新聞記者という責任で書いたものではないということである。従ってこの著によって起きてくる問題の一切は、読売新聞社には全く関係がなく、すべて著者個人の責任である。
昭和三十年七月 四巨頭会談の日
三田和夫
著者略歴
大正9年 盛岡市に生る・日大芸術科卒
昭和18年 読売新聞入社・社会部記者となる
昭和22年 シベリヤより引揚・復職
法務府・国會・警視庁各記者クラ
ブを経て、現在通産省・農林省記
者クラブ詰
赤い広場—霞ヶ関
昭和30年7月30日 第一刷 発行 ¥130
著 者 三田和夫
発行者 野老山宏
印刷者 新倉誠一
禁無断
転載・演劇
映画・放送
発行所 東京都千代田区神田神保町3—13
20世紀社
TEL 33 4356
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製本 谷島製本