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新宿慕情 p.010-011 新宿慕情・目次 事件記者と犯罪の間・目次

新宿慕情 p.010-011 新宿慕情 目次 事件記者と犯罪の間 目次
新宿慕情 p.010-011 新宿慕情 目次 事件記者と犯罪の間 目次

新宿慕情目次

はしがき
新宿慕情
洋食屋の美人
〝新宿女給〟の発生源
ロマンの原点二丁目
〝遊冶郎〟のエチケット
トップレス・ショー
要町通りかいわい
ブロイラー対〝箱娘〟
〝のれん〟の味
ふりの客相手に
誇り高きコック
味噌汁とお新香
新聞記者とコーヒー
お洒落と女と
おかまずしの盛況
大音楽家の〝交〟響曲
〝禁色〟のうた
えらばれた女が……
オカマにも三種類
狂い咲く〈性春〉
青春の日のダリア

事件記者と犯罪の間

その名は悪徳記者
特ダネこそいのち
権力への抵抗
根っからの社会部記者

新宿慕情 p.092-093 「衆議院議員佐藤栄作・秘書」とあった

新宿慕情 p.092-093 まだその時には、彼が平和相互一族とは気が付かなかった。その後徳間康快が、選挙違反〝モミ消し〟に活躍した時初めて身上について知ったのだった。
新宿慕情 p.092-093 まだその時には、彼が平和相互一族とは気が付かなかった。その後徳間康快が、選挙違反〝モミ消し〟に活躍した時初めて身上について知ったのだった。

お洒落と女と

半歳の恋の終わり

——小宮山のヤツ、若いクセにイイさらりい取ってんだナ…。

当時、そう感じたことを覚えている。(私のコーヒー好きのインネン話なのだから、もう少し、つづけさせて頂きたい)

農林省での大特オチから、処分で本社勤務に上げられ、ヒマ人同士の、私と小宮山重四郎クンとが、喫茶店の姉妹のウェイトレスにウツツを抜かし、私が彼を破って、恋の勝利者になったところまで書いた。

ところが、好事魔多しというように、この恋にも、やがて、別れねばならない時がきた。

遊軍勤務一年。翌三十二年初夏には、私は、司法記者クラブのキャップとして、またまた、激烈な事件記者の世界にもどることになったのだ。

それが内示された夜、私は彼女にいった。

「社会部記者の最前線なんだ。しかも、責任者だから、いままでみたいに、ノンビリしてはいら

れない、と思うよ。寂しいけど、逢う機会が少なくなる……」

「いいわ。この、たのしい想い出を持って、私も、九州に帰るわ。……じゃ、今夜が最後ね…」

別れもまた愉し、といったフランスの劇作家の戯曲があったような記憶がある。半歳の恋の終わりは、それなりに甘美なものであった。

彼女は、喫茶店を辞めた。私の銀座勤務は、桜田門になったし、小宮山クンの姿も、いつか社会部席から消えていた。

……そしてまた一年。三十三年初夏に、私は、安藤組事件に関係して、読売を退社していた。世田谷の梅ヶ丘に住んでいた私は、フリーになって、淡島経由のバスで渋谷に出、地下鉄で都心へ出かける。

その秋のある日。淡島から乗りこんできた男の顔に、見覚えがあった。

「アッ、小宮山クンじゃない? 三田だよ。どうしているの?」

「お久し振りでございます。私いま、こういうことを……」

相変わらず、折り目正しい挨拶をしながら、彼は、一枚の名刺を差し出した。「衆議院議員佐藤栄作・秘書」とあった。

「ハイ、秘書と申しましても、ナニ、〝台所秘書〟でして……」

ヘヘーン……と、私は感じた。それでも、まだその時には、彼が、平和相互一族とは気が付かなかった——その後、彼の初出馬が、大きな選挙違反を起こし、司直の手が、落選候補の身辺ま

で迫った時、読売の同期生だった徳間康快が、その〝モミ消し〟に活躍した、という話を聞いた時、初めて、〝小宮山重四郎・元読売記者〟の身上について知ったのだった。

新宿慕情 p.094-095 私の背広のほとんどがクレジットの丸井のもの

新宿慕情 p.094-095 私は、コーヒー好きだが、コーヒーについての講釈はできない。~ただ、どこの喫茶店のコーヒーが美味いか不味いか、だけなのである。~衣類もそうだ。
新宿慕情 p.094-095 私は、コーヒー好きだが、コーヒーについての講釈はできない。~ただ、どこの喫茶店のコーヒーが美味いか不味いか、だけなのである。~衣類もそうだ。

その秋のある日。淡島から乗りこんできた男の顔に、見覚えがあった。
「アッ、小宮山クンじゃない? 三田だよ。どうしているの?」
「お久し振りでございます。私いま、こういうことを……」
相変わらず、折り目正しい挨拶をしながら、彼は、一枚の名刺を差し出した。「衆議院議員佐藤栄作・秘書」とあった。
「ハイ、秘書と申しましても、ナニ、〝台所秘書〟でして……」
ヘヘーン……と、私は感じた。それでも、まだその時には、彼が、平和相互一族とは気が付かなかった——その後、彼の初出馬が、大きな選挙違反を起こし、司直の手が、落選候補の身辺ま

で迫った時、読売の同期生だった徳間康快が、その〝モミ消し〟に活躍した、という話を聞いた時、初めて、〝小宮山重四郎・元読売記者〟の身上について知ったのだった。

コーヒーの話、しかも、医大通りのグループと、ホテル・サンライトの裏手に当たる、新田裏交差点の、バロンとの、味比べについて書こうとしながら、喫茶店通いが身についてしまった思い出話が、ついつい、長引いてしまった——。

美味いかどうかで

私は、コーヒー好きだが、コーヒーについての講釈はできない。つまり、コロンビアだとかモカだ、ブルーマウンテンだなどと、原産地や豆の混合についての知識は、皆無なのだ。

ただ、どこの喫茶店のコーヒーが、美味いか不味いか、だけなのである。

だから、行きつけの店でも、コーヒーの特注はしない。その店のレギュラーものが、美味いかどうか、だ。

同様に、ウィスキーなど、酒類についても、銘柄だとかの好みはいえるが、酒についての造詣も深くない。

酒が、美味く、たのしく飲めて、雰囲気が良ければ、それで良しとする。

衣類もそうだ。舶来生地であろうがなかろうが、自分に似合うものを、気持ち良く着こなせれば、それでよい。

いまは、そんなこともなくなったが、むかしは、旅館に一見の客がくると、番頭が、靴とベルトを見て、所持金の有無を判断し、さらに、夜に、部屋までフトンを敷きにきて、客種を瀬踏みした、ものだそうだ。

私のことを、〈お洒落〉だという人がいる——しかし、例えエナメルの靴をはいていても、それは、はき易いし、その服に似合う、と考えて、買ったもので、ベルトなどは、バーなどがお中元にくれた安物しか、使わない。靴ははき易く疲れないもの、ベルトは、ズボンがズリ落ちなく機能するものであれば充分だ。

私の背広のほとんどが、クレジットの丸井のもの、と話して驚かれたこともある。

もっとも、これにはワケがあって、家内の高校友だちが、腕のいい洋服職人と結婚していて、そのダンナに仕立ててもらっていた。

むかしは、府立五中時代の制服屋のダンナに作ってもらっていた。つまり、子供のころから私の体型を知っている人だから、フィットする仕立てだった。

それから以後、知人に紹介されたり、アチコチの洋服屋で作ってみたが、最初の一着で(どんな入念な仮り縫いをしたとしても)腕を通してみて、ピタッときまる洋服屋に出会ったことはない。

それは、注文者の体型を熟知していないからである。人間の身体は、左右の手の長さは同一ではないし、生身なのだから、メジャーの数字以外の、プラスアルファがあるものなのだ。

家内にいわれて、はじめは、オ義理のつもりで、一着、頼んでみた。ところが、「どうせピタ

ッとこないだろう」と思ってなかば諦めの心境だったのに、これがなんとまあ、一パツでドンピタなのである。