新宿慕情目次
はしがき
新宿慕情
洋食屋の美人
〝新宿女給〟の発生源
ロマンの原点二丁目
〝遊冶郎〟のエチケット
トップレス・ショー
要町通りかいわい
ブロイラー対〝箱娘〟
〝のれん〟の味
ふりの客相手に
誇り高きコック
味噌汁とお新香
新聞記者とコーヒー
お洒落と女と
おかまずしの盛況
大音楽家の〝交〟響曲
〝禁色〟のうた
えらばれた女が……
オカマにも三種類
狂い咲く〈性春〉
青春の日のダリア
事件記者と犯罪の間
その名は悪徳記者
特ダネこそいのち
権力への抵抗
根っからの社会部記者
新宿慕情目次
はしがき
新宿慕情
洋食屋の美人
〝新宿女給〟の発生源
ロマンの原点二丁目
〝遊冶郎〟のエチケット
トップレス・ショー
要町通りかいわい
ブロイラー対〝箱娘〟
〝のれん〟の味
ふりの客相手に
誇り高きコック
味噌汁とお新香
新聞記者とコーヒー
お洒落と女と
おかまずしの盛況
大音楽家の〝交〟響曲
〝禁色〟のうた
えらばれた女が……
オカマにも三種類
狂い咲く〈性春〉
青春の日のダリア
事件記者と犯罪の間
その名は悪徳記者
特ダネこそいのち
権力への抵抗
根っからの社会部記者
私が、ハンバーグから始まって、エビフライに進んだ中学生のころ、つけ合わせのスパゲティから、炒めウドンを思いついた。ウチの兄弟たちは、戦前からすでに、朝食にはパンを採用して、キャベツの炒めたのや、残り御飯を炒めたりして、それをつけ合わせにする、といった献立を考え、母親に〝強要〟していた。
当時、目白に住んでいたのだが、池袋との間に、東京パンの工場があったり、付近に、大陸帰りの人がいて、〈労研饅頭〉という名前で、中国のマントオと同じものを製造販売していたことも、朝食に、パンやマントオ(軍隊時代にも、その感激を再現したものだが、バターをつけて食うと、実に美味い)が登場するキッカケのひとつだったろう。
いまでこそ、スナックなどで、焼きうどん、などというメニューのところがあるが、油が良くないし、具が多すぎたりする。ことに、キャベツの骨まで、プツ切りにして入れたりするから、〝愛情〟に欠ける。
私などは、炒めうどんから、素麺炒めへと進んでいる。うどんにせよ、そうめんにせよ、炒めるとなると、茹で方がむずかしく、過ぎても及ばなくても、味が落ちる。
このように、創意工夫があって、はじめて〈送り手〉になれるのであって、それがなければ〈受け手〉に甘んじているしかない。それにしても、いまの若い人たちは、あまりにも、なんでも〝与えられ〟ることに、馴れすぎている。
これでは、養殖のうなぎやハマチ。ブロイラーのように、単なる〝人糞製造器〟にすぎなくなる。ワビ、サビはもとより、味などとは縁遠く、デモや内ゲバや、〝強行採決〟の働きバチとしてしか、効用価値がなくなってしまうのではないか。われわれは、《人間》なんだ、ということを、忘れないでほしい。
〝のれん〟の味
銘柄の味覚の違い
こんなことがある。
ウチの女子社員に、「雪印のコンデンスミルクを買ってきてくれ」と、頼んだ。
徹夜で原稿書きをするのに、ドリップ・コーヒーをいれるのだが、あけ方になって、疲れてくると、やや甘いコーヒーが欲しくなる。そのための、コンデンスミルクなのだ。
その娘は、「ハイ」といって買ってきてくれた。包装のまま仕事部屋に置き、真夜中に、サテというので、紙包みを開いてみたら、ナント、森永のミルクである。
ハラが立ってしまって、もう原稿が進まない。やむなく、それを使ってみたが、味が違うのでおいしくない。
いま時の連中は、ハンバーグといって出されれば、自分の知識、体験から、「これはハンバーグらしくないナ」と、疑問を抱かない。前にも、クドクド書いたように、「ハンバーグですよ」と、与えられたら、「これがハンバーグだ」と、思いこむように教育されているのだ。
いま時の連中は、ハンバーグといって出されれば、自分の知識、体験から、「これはハンバーグらしくないナ」と、疑問を抱かない。前にも、クドクド書いたように、「ハンバーグですよ」と、与えられたら、「これがハンバーグだ」と、思いこむように教育されているのだ。
マクドナルドのハンバーグも銀座の松屋通りの白亜のハンバーグも、ハンバーグである限り同じだ、という思考形式だ。
だから、わざわざ、銘柄を指定し、メモに書いて渡しても、コンデンスミルクとして買ってくる。
それなら、銘柄の違いは関係なくなる。ハンバーグ製造第二三一工場製、第八二工場製と同じという、全体主義国家の〝味覚〟である。新住居表示が地名のいわれや、いわくいんねんを無視して、ベンリ第一主義の画一性を重んじるのと同じ手口だ。
いまに、学校も、すべて、ナンバースクールになるだろうし、企業も、そうなるかも……。
明治時代に、第一銀行から始まって、第百何十何銀行とあったのだが、いま、このナンバーバンクが、いくつ残っているだろうか。
高等学校(旧制)も、二高、三高、四高と、ナンバーで呼ばれても、仙台、京都、金沢の……と、その土地柄と地名とが、ついてまわっていた。
私の中学(旧制)は、東京府立五中で、やはり、ナンバースクールだが、それぞれに地名が冠せられる。
私らの時代でさえ、府立九中などとなると、もう、程度が低いとして、バカにしたものだったが、戦争末期には、府立第十何中などと、ふえたようだ。しかし、小石川高校(新制)はむかしの五中、といわれるが、第十何中はいまの◯✕高校などとはいわない。
きまりの店と料理
コンデンスミルクだけではない。庶務の文房具係の娘は、ボールペンといえば、銘柄関係なしで、手当たり次第に、ボールペンを買う。
すると、ゼブラの替え芯は、他のメーカーに使えない、というムダができる。銘柄、つまりメーカー、つまり、店それぞれの〝味〟という認識がない。だから、こんな連中には、高かろう美味かろう、というのを食べさせても、ムダだと思う。モッタイないのだ。
「アラ、ジバンシーの石けん」
「ウワーッ、ヘルメスのネクタイじゃないですか」
そういう若い社員がいれば、惜しいナ、と思っても、ついつい呉れてしまう、というもの。お中元シーズンともなれば、やはり、〝違いのわかる〟相手でなければ、それこそ、〝豚に真珠〟である。
いやいや、まったく演説がつづいてしまった。……と、まあ、そんなわけで、同じ新宿でも、西口は、大阪のイミテーションだから、あまり、歩きもしなければ、出かけもしない。
洋食屋のいこい、一軒だけしか、まだ登場していないが、やはり、私のフランチャイズは、東口、中央口。駅のソバの丸井や、三越からこっちになる。
スパゲティを食べるなら、丸井横通りのミラノ。不愛想なオッサンが目障りだけど、やはりス
パゲティの専門店だけあって息が長い。