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新宿慕情 p.012-013 目次(つづき) 事件記者と犯罪の間 最後の事件記者

新宿慕情 p.012-013 事件記者と犯罪の間 目次(つづき) 最後の事件記者 目次
新宿慕情 p.012-013 事件記者と犯罪の間 目次(つづき) 最後の事件記者 目次

事件記者と犯罪の間

その名は悪徳記者
特ダネこそいのち
権力への抵抗
根っからの社会部記者

最後の事件記者

我が事敗れたり
共産党はお断り
あこがれの新聞記者
恵まれた再出発
サツ廻り記者
私の名はソ連スバイ!
幻兵団物語
書かれざる特種
特ダネ記者と取材
「東京租界」
スパイは殺される
立正佼成会潜入記
新聞記者というピエロ

あとがき

最後の事件記者 目次

最後の事件記者 目次
最後の事件記者 目次

目次

はしがき

我が事敗れたり

共産党はお断り

あこがれの新聞記者

恵まれた再出発

サツ廻り記者

私の名はソ連スパイ

幻兵団物語

書かれざる特権

特ダネ記者と取材

「東京租界」

スパイは殺される

立正交成会潜入記

新聞記者というピエロ

あとがき

最後の事件記者 p.172-173 ニュース・ソースとセンス

最後の事件記者 p.172-173 私は特ダネ記者だといわれた。二十四年から二十九年の六年間などは、全くトップ記事の連続であり、M記者とか、三田記者とかの、署名入りが多い。
最後の事件記者 p.172-173 私は特ダネ記者だといわれた。二十四年から二十九年の六年間などは、全くトップ記事の連続であり、M記者とか、三田記者とかの、署名入りが多い。

彼女が、処女ではなくなっていたことと、日記が二日もぬけていたことはふれなかった。

最後に、父親の話を書いた。

「私がI子にいやらしいことをしたなんて……、とんでもない。フトンをかけたり、めくったりしたのは、寝冷えしやしないかという、本当の親子の愛情から出たことです。かんじんのフトンさえ少いので、一しょに寝たりするのが、内気で感受性の強い娘の心を刺激したのかもしれません」

ここまで書いてきて、私は少し考えてから、もう少しつけ足した。

「全くの誤解です。しかしいずれにしろ、これを機会にぷっつりと酒をやめ、娘の冥福を祈る

つもりです」

これが、私のはなむけの言葉だった。何しろ、彼女の遺書には「私は清い心と身体のまま死んでゆきます」とあったからだ。

しかし、整理部のデスクが、うまい見出しをつけてくれた。〝拭いきれない悪夢〟と。私は今でも、あの父親の表情を想い起す。この長い人生で、あのような表情は、二度とみることはあるまい。

特ダネ記者と取材

特ダネと心理作戦

特ダネというものは、タネを割れば簡単なものである。広く深く、情報ともいうべきニュース・ソースの交際を持っていれば良い。それと、あとは記者自身の、情報を記事という具体的なものに進められる能力である。

私は特ダネ記者だといわれた。今、この十五年間のスクラップ・ブックをひろげてみると、実によく原稿を書いているし、一番働らき盛りであった、二十四年から二十九年の六年間などは、全くトップ記事の連続であり、M記者とか、三田記者とかの、署名入りが多い。

これも、「これはイケる」という、ニュース・センスと、そんな話を聞きこめるニュース・ソースとが、両々相俟っていれば、極めて簡単なことである。私は、役人に事件の書類をすべて見 せてもらった、という記憶がない。

最後の事件記者 p.174-175 人の名前と顔を記憶する能力

最後の事件記者 p.174-175 私はそこで一計を策した。兵隊の身上調査書を熟読したのだ。家庭の事情がどうで、性格はどうだ、ということを、三晩かかってほとんど覚えてしまったのである。
最後の事件記者 p.174-175 私はそこで一計を策した。兵隊の身上調査書を熟読したのだ。家庭の事情がどうで、性格はどうだ、ということを、三晩かかってほとんど覚えてしまったのである。

これも、「これはイケる」という、ニュース・センスと、そんな話を聞きこめるニュース・ソースとが、両々相俟っていれば、極めて簡単なことである。私は、役人に事件の書類をすべて見

せてもらった、という記憶がない。やはり、それほど役人は、秘密を守る義務に対して忠実である。

従って、役所の机の中をガサったり、書類を盗み出したりといった、非合法取材の経験はない。ただ、私は友人に多く恵まれて、いろんな噂話を聞ける立場にあった。特ダネのヒントは、すべて、このように民間人から得るのであった。

あとは、心理作戦である。第一、私は人の名前と顔を記憶する能力に恵まれていた。恵まれていたというよりは、努力して後天的に築きあげた才能である。

私が保定の予備士官学校を卒業して、晴れて見習士官となり、原隊に帰ってきた時のことである。つい一年ばかり前、初年兵として風呂で背中まで流してやった連中が、今度は部下である。

軍隊はメンコの数といわれる。六年兵までがいる北支の野戦部隊だから、二年兵の見習士官などが、大きな顔のできるハズがないのが当然である。私はそこで一計を策した。

中隊の事務室へ行って、兵隊の身上調査書を熟読したのだ。家庭の事情がどうで、性格はどうだ、ということを、三晩かかってほとんど覚えてしまったのである。もちろん、二百名余りの全員が覚え切れるものではない。各年次の代表的人物をまず覚えたのである。

その効果は適メンであった。学科をやっている時、名前を覚えている兵隊が、居ねむりするのを待つ。或は他所見でもよい。すると私は、注意を与えるのだが、その時に「オイ、〇〇上等兵、眠ってはいけない」と、名指しでやるのだ。

あるいは、手紙の検閲で、母親が病気だということを知った兵隊は、営庭でスレ違う時や、歩哨勤務についているのを、巡察で廻った時に、呼び止めて、「〇〇一等兵、お母さんの病気はその後どうだ」とやったのだ。或は「××兵長、今日は誕生日だナ」と。

この心理作戦の効果は絶大であった。「今度の見習の奴は、どうして俺のことを知ってるのだろう」といった話がでて、尊敬の念を集め得たのであった。それも、着任して数日のことである。私は、それこそ夜もねないで、写真と身上調査書とを見くらべては、覚えこんでいたのである。

この時以来、私は人の名前と顔を覚える力がついたようである。それに、演劇青年時代のオカゲで、芝居がうまいのである。演伎がうまいということは、その役柄の心理状態になりきることである。それには、平常からの人間心理への勉強が怠られない。

特ダネ記者ということは、心理作戦の遂行者ということだ。役人という人種は、理詰めの仕事

をしているので、警察での取調べに一番弱いといわれる。理クツもハチの頭もないような人種ほど、口が堅いという。義理人情の世界に生きる人たちである。

最後の事件記者 p.176-177 役人の秘密を守る義務

最後の事件記者 p.176-177 役人はつねに背反した心理にある。自分のやっている仕事が、ニュース・ヴァリューがあって、新聞記者に追い廻されている、ということに、やはり仕事の誇りを感ずる。
最後の事件記者 p.176-177 役人はつねに背反した心理にある。自分のやっている仕事が、ニュース・ヴァリューがあって、新聞記者に追い廻されている、ということに、やはり仕事の誇りを感ずる。

特ダネ記者ということは、心理作戦の遂行者ということだ。役人という人種は、理詰めの仕事

をしているので、警察での取調べに一番弱いといわれる。理クツもハチの頭もないような人種ほど、口が堅いという。義理人情の世界に生きる人たちである。

つまり、役人の秘密を守る義務に違反させられるのは、彼らのこの心理をつかまなければならない。筋道を立てて、理詰めで押してゆく正攻法もある。それと、この男は仁義に固いから、話しても大丈夫、裏切られない、という実績をもって、信頼を得ることも必要である。

また、同時に役人というのは、オーソリティ、つまり、権力や権威に対して弱い。

「すべて知っているのだゾ」というポーズも必要である。彼らは、このポーズに対して、「知っているなら、かくしたって無駄だから話そう」という、心理状態にまきこむ。

役人はつねに背反した心理にある。自分のやっている仕事が、ニュース・ヴァリューがあって、新聞記者が聞きにきた——新聞記者に追い廻されている、ということに、やはり仕事の誇りを感ずる。秘密というものは、発表されたがることによって、秘密としての値打ちがある。だから、常に、発表されたくてウズウズしており、それがデカデカと扱われることによって、彼の仕事への誇りは満足させられるのである。

その気持を食い止めているのが、その仕事が途中でもれたために失敗することであり、法的な

秘密を守る義務である。その辺のところを研究すれば、ヒントさえあれば、聞き出せる手は、いくらでもあるのである。

新聞記者と警察官

先日、警察官が新聞記者に対し、記者と承知のうえで暴行した事件があった。各新聞は筆を揃えて、ことに朝日などは、〝記者が暴行されたからといって、取上げるのではないが〟と、なくてもがなの断り書きまでを前文に入れて、いずれも特筆大書したのだった。

そうして、この事件は、警察官の教養の問題として取上げられ、警職法にもひっかけられて、〝暴行する警察官〟として、大いに批判を受けたのである。

だが、私は暴行する警視庁予備隊ばかりが、表面的な暴行の事実だけを取りあげられ、非難されていることに疑問を持った。どうして、彼らが記者と承知のうえで、暴行を働らいたか、ことに、警部という地位や、年令からいっても、その暴行を阻止すべき人物までが、先頭に立って乱暴したかという、その内面にまで立入って考える必要があるのではあるまいか。

警察官は、直接自分が手がけた事件を通して、一番、新聞および新聞記者を軽べつし、同時に、 一番、新聞および新聞記者を恐れている職種の人物だと思う。